第 22 回腸内細菌学会で「腸内細菌叢の安定性 / 不安定性と生活習慣の関連」について発表いたしました

2018年 5月 31日

腸内細菌叢の安定性 / 不安定性と生活習慣の関連
Stability/instability of human gut microbiota and lifestyle factor

○竹田 綾 1,渡辺 諭史 1,栗山 実 1,宇野 毅明 2,沢井 悠 1
1 株式会社サイキンソー,2 国立情報学研究所


【目的】
次世代シーケンサーを用いた 16S rRNA メタゲノム解析手法が確立されて以来,世界中でヒト腸内細菌叢の大規模コホート研究が行われている.
日本国内においても報告例が増え,腸内細菌組成の個人差が明らかにされつつある.一方,腸内細菌組成の経時的変化については,まだ報告例が少なく,特に様々な生活習慣の変化を伴う多様なコホートの腸内細菌叢を縦断的に分析した例は少ない.腸内細菌叢の個人内の変動は,個人間の違いを超えない程度に安定しているとする報告が多い.腸内細菌叢の不安定性は炎症性腸疾患の診断バイオマーカーとしても注目されている.そこで本研究では,日本人における腸内細菌叢の安定性 / 不安定性の分布を明らかにし,特徴付けを行うことを目的とした.

【方法】
ウェブサービスを介して集めた日本人のオンラインコホートのうち,複数回受検した 444 名の糞便試料と生活習慣アンケートを解析対象とした.複数時点間の菌叢の変化は,(1)マンハッタン距離および Jaccard 類似度を用いた評価方法と,(2)各常在菌の存在割合の変化値による評価方法,を用いて分析した.菌叢の変化の各指標と生活習慣アンケートの回答値との相関を分析した.

【結果】
マンハッタン距離を指標とした分析の結果,菌叢が検査時点間で一定距離以内の変化しか示さない群を特定でき,それ以外の群では距離の個人差が大きいことが分かった.そこで,特徴のある菌種のJaccard 類似度を指標として,菌叢が検査時点間で類似している者を安定群,それ以外を不安定群として,それぞれの生活習慣を比較分析した結果,不安定群は,食事の嗜好性や排便習慣,メンタルストレスに特徴がみられた.各常在菌の存在割合の変化値を指標とした分析の結果,ベースの存在割合に比して変化率の大きな菌と,変化率の小さな菌を特定できた.生活習慣アンケートの回答値との相関分析の結果,変化しやすい菌と関連する生活習慣を見出すことができた.

【考察】
オンラインコホートを縦断的にサンプリングすることにより,腸内細菌組成の安定性 / 不安定性の特徴を明らかにすることができた.個人の腸内細菌組成は高度に個別化されているだけでなく,経時的変化にも個別化された特徴があることが示された.これらの知見は,腸内細菌叢の変化を健康状態の変化に結びつけようとする際に,経時的変化の指標も考慮する必要があることを示唆している.

 

第 22 回腸内細菌学会 一般演題 B–11(PDF)

 

大会テーマ 『宿主ー腸内細菌相互作用 ― 双方向制御の分子メカニズムに迫る ―』
日時 平成30年5月31日(木)・6月1日(金)
会場 タワーホール船堀 江戸川区船堀4-1-1
大会長 大野博司(理化学研究所)